EAFF E-1サッカー選手権2019振り返り

 今回はEAFF E-1サッカー選手権2019の3試合を振り返りたいと思う。

まずは中国戦。Jリーグ最終節から中2日というハードスケジュール、練習もできなかったなかで、3バックを採用。クラブや代表で3バックを経験済みのメンバー中心の構成となったが、全体的に前線とDFラインがコンパクトに保たれていた。前半は左ウイング遠藤とシャドーの森島を中心に攻撃が展開され、1点目も上田の落としから森島が抜け出し、鈴木のゴールをアシスト。左サイドから崩し、右サイドへという形が多く見られた。一方、後半は左サイドから崩せなくなり、他の攻撃バリエーションが持てなかったことで攻撃が停滞。セットプレーから得点はしたものの、前半の三浦が逸らして畠中が合わせたシーンにも見られたように、相手のセットプレー対応が著しく悪く、セットプレーから点が取れたことを手放しで喜ぶことはできない。さらに終盤は押し込まれ、シンプルなクロスから失点を喫した。3バック全員がエリア内にいたにも関わらずフリーでシュートを打たれたことは、大きな減点材料といえるだろう。相手がもう少し早くからつなぎを捨て、シンプルにロングボールやクロスを使っていたら、引き分けに終わっていた可能性も高い。試合を通して相手の技術力の低さに助けられた場面が多く、3バックの是非を問える相手ではないといえる。

次に、香港戦。相手が弱すぎたこともあり、5-0と大勝。菅、田川の代表初ゴールや、小川の史上3人目となるデビュー戦でのハットトリックなど、多くの東京五輪世代が活躍した。前半から右ウイングの相馬を中心に攻撃を展開。1,4点目は右からのクロスが得点へとつながった。また、ボランチの大島も積極的にボールに絡み、何度も裏へ素晴らしいパスを通していた。守備も試合を通して集中しており、ほとんどピンチを招かなかった。しかし、前半は4点とったなかで、後半1点しか取れなかったことは残念。中国戦と同様に、攻撃のリズムに慣れられた際に他の崩しのバリエーションを見せることは、今後必要になってくるだろう。また、こちらも3バックの是非を問える相手ではないといえる。

最後に韓国戦。引き分け以上で優勝という一戦で終始押し込まれ、結果は1-0ながらも完敗となった。前半は特に相手に押し込まれており、クロスバー、ポストと2度も助けられながらも相手の勢いを止められなかった。また、相手のプレスが前から激しく、つなぎきれずにボールを失う機会が多かった。それにも関わらずGKからつなごうとし、再び危険な位置で奪われるというシーンが何度もあった。戦術で相手に上回れているなかで臨機応変に対応していくことができなかったことは問題であり、そもそもGKからつなぎを重視した戦術をとるのであれば、スタメンに中村ではなく大迫、井手口あるいは田中碧ではなく大島を起用するべきであり、スタメン自体間違っている。中国戦では起点になっていた遠藤が怪我の影響か動きが悪く、唯一の起点の左サイドでボールがつなげなかったことは特に痛かった。その結果この試合の前半では右から攻撃しようとする機会が多く、鈴木のところで収まらず奪われるというシーンが何度も見られた。失点シーンでも、リフレクションがありボールの勢いが弱まったことは事実ではあるが、DFをしっかり背負えていれば奪われることはなく、ファールをもらうことはできたはずだ。後半になって相手のプレスが弱まってからも後ろで回すことに終始。相手のDFにギャップが生じ、ボールを受けれた際にもシュートまではたどり着けず。相手GKのキムスンギュが守備したのは終盤のクロスからのパンチング以外に記憶に残っていない。また、1点を取らなければ優勝はなく、絶対に点を取らなければいけない状況にも関わらず後ろでつなぎ、フォーメーションにこだわる消極的な姿勢には呆れるしかなかった。後半少し動きが良くなっていた鈴木から、香港戦で全くシャドーにフィットしていなかった仲川を起用したことも不可解。後ろを削って、仲川あるいは小川を起用するべきであった。攻守で圧倒され、大敗していた方が妥当なゲーム内容であった。森保監督の戦術、采配に疑問が残るゲームとなった。


以下には選手の採点(10点満点で5.5を及第点とする)と寸評を載せる。


 中村航輔 4.5点
中国戦は全体的にピンチはなく、たまにきたシュートもしっかりと反応。失点シーンもよく弾いたといえる。ただ、フィードの制度や足元の安定感という面では不安を残した。
韓国戦はミドルシュートを防げず、失点。あれだけの人数がいたなかであのコースにボールが飛んできては防げないのはしょうがないが、足元からのつなぎが出来ないなかで、シュートストップを買われてスタメン起用されているのだから、防いで欲しいというのが正直なところだ。森保監督はGKにもつなぎを求めるため、足元の技術は高める必要がありそう。今後も招集機会は少なそうだ。


 大迫敬介 5.5点
香港戦ではピンチはなく、出番はほぼなし。ただし、コーナーキックからボール弾いて相手にシュートを打たれたシーンはマイナス要素。


 小島亨介 ー点
3試合を通して出番なし。東京五輪へ、AFC U-23アジア選手権でのアピールは必須だ。


 畠中槙之輔 4.5点
中国戦は全体的にハイパフォーマンスを披露。守備でも鋭い読みからパスカットを何度も見せ、攻撃では相手のプレスをかわす余裕も見せる。セットプレーから惜しいシュートもあった。ただし、失点シーンは相手をフリーにし、背後をとられたことはマイナス要素だ。
香港戦では、途中出場で3バックの真ん中を務めた。特に目立つシーンもなく、田中駿汰をボランチ起用したいがためだけの起用となった。
韓国戦では、後ろからのつなぎでミスが生まれ、失点シーンでは寄せきれず。セットプレーでも競り負けるシーンがあった。ベネズエラ戦に続いて、ハイレベルな試合で活躍できなかった。


 三浦弦太 5点
中国戦では、守備を統率し、フィジカルで負けず。セットプレーから代表初ゴールを奪った。前半のイエローカードは余計だった。
韓国戦では、守備で奮闘するも、DFリーダーとして相手の波を押し返せず。今後に向けた大きなアピールはできなかった。


 佐々木翔 4.5点
中国戦ではレベルの低さを露呈。トラップミスが多く、ピンチを招くことは一度ではなかった。パスが相手に当たるシーンが多く見られた。フィジカル勝負は負けていなかったか。1点目の得点シーンで上田へパスを出した縦パスは唯一のハイライトだ。
韓国戦では、フィジカル勝負では負けておらず、体を張った守備はできていた。後ろからつなぐ際のポジショニングがもっと高ければ、遠藤、相馬もより高い位置を取れ、もっと優位にドリブル突破できていただろう。


 渡辺剛 5.5点
香港戦は、相手のレベルが低いこともあり、守備シーンは少なかった。攻撃では良い縦パスのシーンもあり、相馬や仲川へのパスも多く通していた。韓国戦のようなハイレベルな試合で見たかった選手。


古賀太陽 5点
香港戦は、3バックの左で起用される。相手のレベルもあるが、フィジカル勝負など、守備は及第点。攻撃は消極的で、起点にはなれず。渡辺の方が攻撃の起点になっていたか。東京五輪へのアピールはできず。


中駿汰 5.5点
香港戦では、最初は3バックの中央を守り、後半途中からボランチで起用される。3バックの中央では、フィジカル勝負で負けるシーンもあったが、最後はやらせない守備ができていた。また、ボランチに入ってからは田川への浮き球パスなど良い点と、簡単にボールロストする悪い点の両面が見えた。


 橋岡大樹 5.5点
中国戦では、普段からチームでやっている右ウイングで代表初先発。守備では奮闘していたが、攻撃では技術不足。右SBならまだ許せるが、右ウイングとしては攻撃力が物足りないといえる。
韓国戦では、唯一の及第点の選手。ロングボールにはほとんど競り勝っており、守備でも奮闘。攻撃力には改善の余地はあるが、守備力はハイレベルな試合でも通用することを証明した。


遠藤渓太 4.5点
中国戦では、代表初先発ながら堂々とプレー。左サイドで森島と共に攻撃の起点となっていた。しかし、後半に次第にペースダウンした点や得点に絡めなかったこと、積極的に仕掛けたドリブルで相手をかわせないシーンも多く、クロスも精度を欠いたことから、一概に高評価とはいえない。
韓国戦では、怪我の影響もあったのか、動きが悪い。持ち味のドリブルは見られず、守備に奔走した。今後、ドリブルに緩急をつけられれば、もっとかわせるシーンが増えるだろう。今のままでは世界には通用しないといえる。


相馬勇紀 5点
中国戦では、出場時間が短いながらも、ドリブルで仕掛けた姿勢は良かった。
香港戦では起点となり、右から積極的に仕掛け、4点目を演出。しかし、クロスを上げることはできるが、精度は低く、4点目の小川と、終盤の上田以外は味方に合わなかった。ほとんどが味方に合わせたクロスではなく、ドリブルで相手を抜くのが精一杯で、ただクロスを上げたとだけというのが理由だろう。香港相手でこの精度では、相手のレベルが上がると厳しくなると言わざるをえない。
韓国戦では後半頭から出場。積極的に仕掛け、クロスを上げるも、やはり精度を欠いていた。ドリブルは良いが、クロスの精度を改善しなければ、今後の起用は難しい。また、守備でも不安があり、その不安を補えるほどの攻撃力ではない。ウイング起用は難しいだろう。


菅大輝 5.5点
強烈なボレーシュートで貴重な先制点を奪取。4点目の得点にも絡んだ。起点は右からが多かったなかで、2得点に絡んだ。また、守備の切り替えも良かった。ただし、ウイングとしてプレーするにはドリブル突破力が低いか。田川の抜け出しにワンタッチで出せるシーンも左足偏重のため出せず。右足をもう少し使えないと厳しいか。


井手口陽介 4.5点
中国戦は中盤で守備も激しく、攻撃でもミドルシュートを狙う姿勢を見せた。2点目のゴールをセットプレーのキッカーとしてアシストした。
韓国戦では、相手の激しいプレスを剥がせず、後手を踏んだ。攻守共に安定感を欠き、チームを引っ張ることはできなかった。


橋本拳人 5点
中国戦は相手にフィジカルで負けることなく戦えていた。しかし、奪った後のパスの精度は改善の余地がある。


大島僚太 6点
香港戦は、ボール回しの中心となり、ボールに数多く触りながら遠い所もよく見ていた。所属チームの川崎でもよく見られる良い裏への浮き球パスも何度も見られた。
韓国戦では、後半から途中出場。らしいボールさばきを見せたが、ゴールにはつながらず。怪我さえなければ日本の心臓になりうる選手だけに、スタメンでなかったこと、出場してから流れを変えられなかったことは残念だ。


田中碧 5点
香港戦は、大島のサポートが中心ながら、時折良い縦パスが見られた。また、守備への切り替えも良かった。田中駿汰のボランチでのテスト、そして韓国戦へ温存のために途中交代。
韓国戦では、相手の勢いもあり、思うような働きを見せられず。相手を引きつけすぎてピンチをもたらすシーンが何度か見られた。香港戦よりも良い縦パスの数は増えたが、シュートまで至らず。


鈴木武蔵 3点
中国戦は1点目のゴールを奪い、代表初ゴール。しかし、それ以外の場面ではトラップミスも目立ち、フィジカル勝負も負けるなど、年長者としてチームを引っ張るどころか、足を引っ張っていた。彼のところでもっと収まれば、右サイドからの崩しももっと見られただろう。最初に選手交代したことが、彼がダメだったことの象徴的なシーンといえる。
韓国戦は終盤まで出場。しかし、中国戦同様ボールが収まらず、失点にも絡んだ。後半少し盛り返したが、今後A代表として活躍するのは厳しい。


森島司 6点
中国戦はボールを頻繁に受けることによって、攻撃のリズムを作り出していた。1点目のアシストは、抜け出しからパスまで見事だった。後半は存在感が減った印象はあるが、東京五輪に向けたアピールは十分できたといえる。中国戦のMOMだ。
韓国戦では、先発フル出場。遠藤の不調もあり、前半はほとんどボールに触れず。彼が起点になれればもう少し攻撃できただろう。後半のシュートは、打つ積極的は良いが、枠に飛ばして欲しかった。ボールを受けてから後ろへ戻すシーンが多く見られたので、よりドリブルやシュートの意識が高まればもっと脅威をもたらす選手になりそうだ。


 仲川輝人 4点
香港戦は、相手の厳しいマークもあり、らしい場面はほとんど見られず。1点目は起点となっていたが、シュートもなく、JリーグMVPとしても背番号10としても物足りない試合となった。
韓国では、終盤に途中出場。ボールに触る機会もほとんどなく、シャドーというポジションに振り回された大会となった。どちらかというとサイドでプレーする選手であり、シャドーでの起用は疑問が残る。3バックのフォーメーションならどちらかというとウイングの方が適正があるだろう。また、今後の招集も厳しいと言わざるをえない。


田川亨介 6点
中国戦は、相手のペースになっていた時間での投入であり、流れを変えるには至らず。ただ、鈴木武蔵よりは圧倒的にボールの収めが良かった。投入直後のシュートシーンは決めておきたかったか。
香港戦は、起点が右からだったこともあり、ボールタッチ数は少なめ。そのなかでも1ゴール1アシストは評価に値する。ゴールのヘディングはあのコースを狙ったわけではないだろうが、良いコースへ飛んだ。また、積極的なチェイシングも良かった。


上田綺世 2点
中国戦は、試合の入りは良くなかったが、徐々に状態が上がり、1点目の起点となったヒールパスは見事。先日のコロンビア戦よりボールの収まりもよく、また、守備での運動量も増えていた。起点にはなっていた一方で、クロスのシーンでエリア内に間に合わず、シュートが打てなかったことは改善の余地がある。
香港戦では、相馬からのクロスにヘディングで合わせるも、ポストに嫌われる。出場時間が少なく、見せ場はこのシーンだけだった。
韓国戦では、相手のフィジカルに勝てず、ボールロストが多かった。数少ないチャンスでも、トラップをミスし、シュートを打つことさえできなかった。コパアメリカなど、A代表でも数多くチャンスを与えられたにも関わらず、ゴールを決めていないことは大きな減点材料。厳しい言い方にはなるが、森保監督は彼の何を重宝しているのか理解に苦しむ。今後も重宝されれば、不可解な選手起用と言わざるをえないだろう。
 

 小川航基 7.5点
デビュー戦でハットトリックは史上3人目。相手のレベルの低さを差し引いても評価できる。1点目のミドルや3点目のヘディングなど、様々なゴールパターンを持った万能型の選手。相手が中央固めてたことあり、起点にはなりきれなかったのは残念だが、十分なアピールとなったはずであったが、韓国戦では出番を得られず。今後も相当なアピールが必要そうだ。


 森保一 0点
中国戦、香港戦は相手のレベルを考えれば勝って当然。格下相手には3バックの導入はありだろう。しかし、同格程度の相手には3バックは弱点にしかならない。選手も迷いながらプレーしているし、ポジションに固執してしまっている。広島時代は現札幌の監督ペトロビッチが何年もかけて土台を作り上げていたことを忘れてはならない。代表は4年間かけて1シーズン強の試合数しかない。メンバーも4年の間に入れ替わることを考えると、慣れない変則的システムは向かない。過去に1からチームを作り上げた経験がないのだから、3バックに固執するのは日本代表を低迷に導くだけである。また、選手起用にも疑問が残る。後ろからのつなぎをするならば、大島を香港戦のみでのスタメン起用は不可解。中村も足元の技術がなく、大きく蹴り出してしまうことを考えると、大迫の起用も考えるべきだろう。鈴木が中国戦で全く収められていなかったにも関わらず、ゴールを取ったという事実に振り回されて起用してしまったこと、A代表レベルにない佐々木が秘蔵っ子であるが故に招集されていることなど、フォーメーションだけでなく、選手起用、選考まで疑問点が尽きない。特に、劣勢に立たされた際にハーフタイム改善が見られない、采配力の無さは問題視すべきだろう。3バックに固執する姿は自分たちのサッカーにこだわり、完敗を喫したブラジルワールドカップを思い出させる。そもそも形すらできていないのだが…。このまま森保一東京五輪、その後のカタールワールドカップを任せていいのか大きな不安が残る。新しい監督の調査を始めるべきだろう。